大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(行ツ)78号 判決

上告人

旭ダイヤモンド工業株式会社

右代表者代表取締役

田中有久

右訴訟代理人弁護士

岡昭吉

被上告人

神奈川県地方労働委員会

右代表者会長

秋田成就

右訴訟代理人弁護士

武藤泰丸

右参加人

総評全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部

右代表者執行委員長

野田正史

右参加人

総評全国金属労働組合神奈川地方本部

右代表者執行委員長

山中寛

右両名訴訟代理人弁護士

三浦守正

伊藤幹郎

三野研太郎

横山国男

木村和夫

岡田尚

星山輝男

林良二

飯田伸一

武井共夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行コ)第六一号、第六二号、第七三号不当労働行為救済命令取消請求事件について、同裁判所が昭和五八年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡昭吉の上告理由第一点について

論旨は、要するに、本件救済命令主文第五項は、上告人において同命令交付の日から一週間以内に同項所定の誓約書を参加人総評全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部に対し交付するとともにこれを木板に墨書して上告人の玉川工場正面玄関付近に掲示すべきことを命じているところ、右の誓約書の交付及び掲示の義務は右の一週間の経過により消滅したから、同項は取り消されるべきであり、上告人はこの点を原審において主張したにもかかわらず、原判決がこの点について判断を示さなかったのは違法である、というのである。

しかしながら、本件救済命令主文第五項にいう一週間は誓約書の交付及び掲示の履行を猶予する期間にすぎず、誓約書の交付及び掲示を履行しないまま同命令交付後約一週間が経過したからといって、誓約書の交付及び掲示の義務が消滅するものではなく、まして同項が違法となるものではない(最高裁昭和五六年(行ツ)第二〇五号、第二〇六号同六〇年七月一九日第三小法廷判決・民集三九巻五号一二六六頁参照)。したがって、上告人の原審における前記主張はそれ自体失当であり、原判決がこれに対し判断を示さなかったとしても、判決の結論に影響を及ぼすものではないから、論旨は結局採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡滿彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 長島敦 裁判官 坂上壽夫)

上告代理人の上告理由

第一点 理由不備

一 原判決には、民事訴訟法三九五条一項六号に該当する理由不備がある。

初審命令主文第五項は上告人に対し、命令交付後一週間以内に同項に定める誓約書を、被上告人旭ダイヤモンド支部に手交するとともに、同項所定方式により一週間掲示すべきことを命じている。同命令書写が上告人に交付されたのは、昭和五一年四月三日であることに争いはない。

労組法二七条四項は、命令の効力は交付の日から生ずること、行政事件訴訟法二五条一項は、処分取消の訴の提起は処分の効力を妨げないことを、それぞれ規定しているが、このことからすれば、右誓約書の手交及び掲示の履行期限は、昭和五一年四月一〇日に経過している。

二 だが被上告人両名は、右履行期限経過による掲示等義務消滅を原審で争った(昭和五七年二月一五日付神奈川県地方労働委員会及び同年四月二一日付旭ダイヤモンド支部各準備書面)。

本件訴訟終了後においても右履行の是非をめぐり、被上告人支部とは無論のこと、同神奈川県地方労働委員会との間においても紛争は必至であり、とくに命令が確定判決で支持された場合における不履行については、労組法二八条所定の罰則が適用される。

たとえ上告人の解釈上、判決確定後においても右誓約書掲示等義務が消滅したと主張し、それが正当であったとしても、命令主文第五項が取消されない限り、上告人は右罰則を適用され得る危険な立場にある。

そうだとすれば、命令所定掲示等履行義務の存否につき判決で確定する法律上の利益が存在し、理論的根拠として事情変更の原則を挙げ得る。

三 命令確定前において、使用者はそれを履行しなくとも制裁を課せられない。

だがそれによる不都合を避けるため例えば、誓約書掲示につき「命令交付の翌日から一週間、但し任意に履行せず再審査または命令取消訴訟を提起した場合は、命令確定日から一週間」の命令でたりるし、また労組法二七条八項に定める緊急命令を求める余地を残す命令主文も容易に考え得る。

しかし被上告人委員会は、これらのてだてを全く考慮せず、主文の文理に反する解釈を上告人に押し付けている。

四 上告人は原審において、右誓約書交付及び掲示に関する命令第五項全部の取消を主張したが(昭和五七年二月一五日付準備書面)、原判決はこれについての事実摘示をせず、かつ判断を示すことなく、組合員資格を失なった松浦ら一一名及び菅元紀を除く一三名についての、誓約書手交、掲示命令を正当として是認した。

理由不備の違法が存在することは明らかである。

第二点 法令違背

一 原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。

すなわち原判決は、労組法五条二項八号所定の同盟罷業(以下ストという)の解釈を誤り、ストを単なる欠勤と判断したため、同法七条三号に定める労働組合に対する、使用者の経理援助禁止規定に反する賃金支払を命じた。

本件は昭和四九年四月一五日から同年五月二〇日まで(五月一八、一九日は休日)、一度も就労することなく、被上告人支部が全面ストを連続実施した事案である。

原判決は、スト通告が一日単位で行なわれたこと、それゆえ支部がスト継続意思を有して、ストを反覆したとしても無期限ストに転化するものでないから、一日ごとにストが終了し、スト解除は問題にする余地はないこと、それゆえスト解除(あるいはスト不実施)の連絡が組合員になされなかったために、五月二〇日就労しなかった者に対し、スト扱いによる賃金控除をすべきでないと判示した。だが以下の理由でこれはストの解釈を誤り、判決主文に影響を及ぼす。

二 ストの本質は労働者集団(一般には労働組合だが、争議団のごとく団体性が稀薄な一時的集団の場合もある)の意思に基づく構成員の全部または一部(指名ストのように一名だけの場合もある)の労務提供拒否であり、スト参加者には必ずストの認識が存在する。

従って組合の全面スト中に労務を提供しなかった者のうち、右スト参加意思が存在しない者については、ストは成立しない。

例えば乙五四号証ないし五七号証に記載されている村瀬外二名は、結婚のための不就労でスト参加意思を有しないため、上告人はスト扱いしなかった。

これに対しスト終了の要件は、スト参加者が労働契約の本旨に従う労務提供を再開することを要し、単なる組合のスト終了決議、使用者への解除通告では足りない。

けだし組合方針に反してストを継続する場合があり(いわゆる山猫ストはこの一型態)、また組合内部事情によりスト解除指令が組合員に周知できなかった場合、組合員はスト意識によって就労しないのであるから、これらを一括して通常欠勤と扱うことは、ストと欠勤の違いを看過し、使用者に賃金面での不当な不利益を強いる。

スト通告やスト解除通告は、労働協約その他別段の定めがない限り(本件にそれが存在しないことは弁論の全趣旨で明白)不要であり、かつ組合自身それに制約されない(スト通告後実施しないこと、スト解除通告後にストを実施することは違法でない)ことからみれば、右通告に法的効力は存在しない。

とくにスト通告は、使用者に圧力を加える戦術的意味を多分に有する。

三 五月二〇日不就労者は、被上告人支部のスト解除決定を知らず、いぜんとしてスト継続の意思を有して、労務指揮権を排除した。

「欠勤」が労務指揮権の存在を前提とし、個人的理由に基づく不就労につき、使用者の承認を得ていることとの違いは明らかである。

五月二〇日不就労者に対する賃金は、右の理由でストに準じて(労組法一条二項、八条の刑事、民事免責は肯定してよい)控除することが、対等な労使関係における公平に合致するものであり、スト解除指令もれによる賃金面での不利益は、右指令もれの責任の所在との関連で、被上告人支部内部で分担すべきである。

なおスト解除指令もれにつき被上告人自身、乙二九号証で六名だけ認めている。

四 さらに、スト継続意思であっても、一日単位のスト通告をする限り、その日限りでストが終り、スト解除を論ずる余地がないという原判決は、著しく経験則に反し(かつ採証の法則にも違反)、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反に該当する。

なぜなら、前記の如くスト通告が法的効果を持たない戦術的なものにとどまり、支部は格段の事情がない限り長期ストを予定して現に一ケ月以上継続したこと、組合員にはスト中といえども毎日電話連絡すべき旨の指令を発していたこと(一日で終るストならば翌日出社すれば足りる)、スト中に開催される全体集会に欠席することも認められ、欠席者が多数あったこと(乙二七号証)、遠隔地でのアルバイト体制が続いていたこと、五月一七日夜の全体集会では、二〇日のスト解除が決定されなかったこと、一日単位のスト通告は一日の交渉に最大限努力する目的でなされたと被上告人支部は主張したが、交渉の持たれない日(連続スト期間中に交渉が持たれたのは五回だけである)でも一日単位の通告がなされていることからすると、的外れであること、五月一七日のスト通告書には無期限ストの趣旨が記載されていたこと、五月二〇日不就労者のうち、事後においても欠勤届を提出しない者が多数存在すること(乙八五号証)、平常時に比べて二〇日の不就労者が異常に多数であったこと(乙一〇二号証との対比)外部団体作成ビラに全面無期限ストを実施していると記載されていること(乙七七号証)その他の事情により、支部は無期限ストの意思で連日ストを実施し、ただ形の上では一日単位の通告をしたにとどまる。

原判決は形式にまどわされて、経験則に反する事実認定をした。

五 よって原判決は破棄されるべきものである。

以上

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